「ハンドボールのキーパーにはやっぱり身長が必要なのかな」「背が低いとレギュラーにはなれないのだろうか」といった悩みを持つ選手や保護者の方は非常に多いです。確かに、ゴールを守るという役割において、身体の大きさは一つの武器になります。しかし、それがすべてではありません。
トップ選手の中には、決して大柄ではないものの、卓越した技術と読みでゴールを死守する守護神たちがいます。身長の重要性を正しく理解しつつ、今できる最大限の努力をすることが成長への近道です。この記事では、身長がもたらすメリットやデメリット、そして体格差を埋めるための具体的な技術について詳しく解説していきます。
ハンドボールのキーパーにおける身長の重要性とメリット

ハンドボールというスポーツにおいて、ゴールのサイズは高さ2メートル、幅3メートルです。この空間を守るゴールキーパーにとって、身長が高いことが有利に働く場面は多々あります。まずは、物理的な高さがどのようなメリットをもたらすのか、具体的なプレーシーンを想定しながら解説します。
長い手足によるシュートコースの制限と守備範囲
身長が高い選手は、必然的に手足のリーチも長くなります。これがゴールキーパーにとって最大の武器の一つです。シューターがシュートを打とうとした瞬間、目の前に大きな壁が立ちはだかっているような圧迫感を与えることができます。手を広げただけでゴールの大部分をカバーできるため、シューターが狙えるコースは物理的に狭くなります。
また、ギリギリのコースに飛んできたボールに対しても、リーチがあれば触れる可能性が高まります。あと数センチ指先が伸びていれば防げた、という場面は試合中に何度も訪れます。身長があれば、特別なジャンプをしなくても届く範囲が広いため、体力の消耗を抑えつつ、効率的にゴールを守ることができるのです。
特にサイドシュートやウイングからの飛び込みに対して、身体を大きく広げるだけでコースを塞ぐことができるのは、高身長キーパーならではの大きなアドバンテージと言えるでしょう。
シューターに与える心理的なプレッシャーと威圧感
ハンドボールはメンタルのスポーツとも言われます。シューター対キーパーの勝負は、技術だけでなく心理戦の側面も大きいです。身長が高く、大柄なキーパーがゴール前に立っているだけで、シューターは「隙間がない」「どこに打っても止められそうだ」という心理的な圧力を感じます。
この威圧感は、相手のシュートミスを誘発する要因になります。普段なら決められるはずのコースでも、キーパーの大きさを意識しすぎて力んでしまったり、無意識に厳しいコースを狙いすぎて枠外に外してしまったりすることがあるのです。
存在感そのものが防御力になるというのは、高身長キーパーの隠れたメリットです。試合の立ち上がりで相手に「今日のキーパーは大きいから手強いぞ」と思わせることができれば、その試合の主導権を握りやすくなります。
高めのシュートやループシュートへの対応力
身長が高いと、当然ながら頭上のスペースへの対応が容易になります。ハンドボールでは、キーパーの頭上を越してゴールを狙うループシュートや、長身シューターによる上からの打ち下ろしシュートなど、高い位置での攻防が頻繁に起こります。
背の低い選手であればジャンプして対応しなければならないボールでも、背の高い選手であれば立ったまま、あるいはわずかな背伸びで処理できることがあります。これは反応速度の面でも有利です。ジャンプという動作が入るとどうしても着地までのタイムラグが発生しますが、立ったまま処理できればすぐに次の動作に移れます。
また、相手がループシュートを選択する頻度自体を減らす効果もあります。「あのキーパーにはループは通じない」と相手に思わせることで、シュートの選択肢を絞らせ、読みやすくする効果も期待できるのです。
速攻の起点となるロングパスの視界確保
現代のハンドボールでは、キーパーがシュートを止めた直後の「リスタート」や「速攻(カウンター)」が非常に重要視されています。キーパーからの正確なロングパス一本で得点が決まることも珍しくありません。
このとき、身長が高いと高い視点からコート全体を見渡すことができます。味方の選手がどこに走り出しているのか、相手のディフェンスがどう戻っているのかを瞬時に把握しやすいのです。さらに、高い打点からパスを投げることができるため、相手ディフェンスの頭上を越すような鋭いパスを通しやすくなります。
インターセプトされにくい軌道でボールを供給できる能力は、チームの攻撃力を大きく底上げします。守るだけでなく、攻撃の第一歩としても、身長の高さは大きな武器となるのです。
身長が高いことによるデメリットや課題はあるのか

ここまで身長が高いことのメリットを挙げてきましたが、逆にデメリットや課題になることはないのでしょうか。実は、高身長ゆえの難しさや、特有の悩みも存在します。これらを理解しておくことは、指導者や保護者にとっても重要です。
足元や低いボールへの対応速度の課題
身長が高い選手にとって最大の弱点となりやすいのが、足元への低いシュートです。目線が高い位置にあるため、地面付近のボールまでの距離が遠くなります。そのため、低いボールを認識してから身体を反応させ、手や足を伸ばして止めるまでの動作にどうしても時間がかかってしまう傾向があります。
物理的にも、長い手足を折りたたんで低い位置に持っていくにはエネルギーと時間を要します。上手なシューターは、大型キーパーのこの弱点を熟知しており、股下や足の横などの低いコースを徹底して狙ってくることがあります。
この課題を克服するためには、股関節の柔軟性を高めたり、低い姿勢を素早く作るための専門的なトレーニングが必要です。単に背が高いだけでは、足元のガードが甘いキーパーになってしまう危険性があるのです。
身体操作の難しさと俊敏性の維持
身体が大きくなればなるほど、その質量をコントロールするのは難しくなります。小柄な選手が機敏に動ける一方で、大柄な選手は動き出しに瞬発力が必要となり、どうしても「重さ」を感じさせる動きになりがちです。
ハンドボールのキーパーは、左右への素早いステップや、倒れ込んでからの復帰など、俊敏な動きが求められます。身長が伸びる時期(成長期)には、急激な身体の変化に神経系の発達が追いつかず、一時的に身体を思うように動かせなくなる「クラムジー」と呼ばれる現象が起こることもあります。
自分の手足の長さを正確に把握し、それをスムーズに動かすためのコーディネーショントレーニングが不可欠です。大きさを活かしつつ、速さを兼ね備えることは、高身長選手にとって大きな挑戦となります。
怪我のリスクと関節への負担
大きな身体を支え、激しい動きを繰り返すことは、関節への負担も大きくなることを意味します。特に膝や腰、足首には体重による負荷がかかりやすく、怪我のリスクが高まる傾向にあります。
ハンドボールのキーパーは、ジャンプ着地や急激なストップ動作、あるいはシュートを防ぐために無理な体勢をとることが多いポジションです。身長が高い選手はレバーアーム(手足の長さ)が長いため、関節にかかるモーメント(回転力)も大きくなり、靭帯や筋肉へのストレスが増します。
日頃からのストレッチや、衝撃に耐えうる筋力トレーニング、そして身体のケアを入念に行うことが、選手寿命を延ばすために非常に重要になります。
身長が低くても活躍するためのキーパー技術と心構え

「身長が低いからキーパーは無理だ」と諦める必要は全くありません。世界を見渡せば、小柄ながらも驚異的なセービング率を誇る選手は存在します。ここでは、身長のハンデを技術と戦術でカバーするための具体的なポイントを解説します。
ポジショニングの正確さでコースを消す
身長が低い選手が最も意識すべきなのは「ポジショニング」です。ゴールラインに張り付くのではなく、シューターに対して適切な距離まで前に出ることで、見かけ上のゴール面積を小さくすることができます。これを「角(かく)を詰める」といいます。
適切な位置に立つことができれば、シューターから見える空きコースは極端に狭くなります。身長の高い選手が一歩で届く範囲を、小柄な選手は半歩前のポジションを取ることでカバーするのです。常にボールとゴールの中心を結ぶ線上に位置し、ミリ単位で立ち位置を修正する緻密さが求められます。
このポジショニングの技術を極めれば、身体の小ささを感じさせないほどの守備範囲を確保することができます。足の運び方やステップワークを磨き、常に最適な位置を取り続けることが生命線となります。
相手の動きを読む「予測」と「駆け引き」
反射神経だけで勝負するには限界がありますが、「読み」を鍛えることで反応速度以上の速さで動くことが可能になります。シューターの目線、腕の振り、助走の角度、ジャンプの方向などから、シュートコースを瞬時に予測する能力です。
また、単に待つだけでなく、こちらから仕掛ける「駆け引き」も有効です。わざと片方のコースを空けて見せて(誘い)、シューターがそこに打ってきた瞬間を狙って止めるというテクニックです。小柄な選手は相手から「空いている」と思われやすいため、この誘いが成功しやすい傾向にあります。
相手の心理を逆手に取り、自分の土俵で勝負することができれば、身長差は関係なくなります。経験を積み重ね、データの蓄積と直感を磨くことが大切です。
瞬発力とアジリティを最大限に活かす
一般的に、小柄な選手は神経系の伝達速度や筋肉の収縮速度において、大柄な選手よりも有利な場合があります。この「速さ」を徹底的に磨くことが重要です。一瞬の飛び出しや、低いボールへの反応速度で勝負します。
特に足元のボールに対しては、小柄な選手の方が重心が低いため、素早く身体を落として対応できます。この強みを活かし、下のコースは絶対に抜かせないという自信を持つことが大切です。また、一度倒れてから起き上がるスピードも速いため、リバウンドの処理や連続シュートへの対応にも強さを発揮できます。
アジリティ(敏捷性)トレーニングに力を入れ、誰よりも速く動ける身体を作ることが、大きな武器になります。
柔軟性を高めて可動域を広げる
手足の長さが足りない分は、関節の可動域でカバーするという考え方です。股関節や肩甲骨の柔軟性が高ければ、身体を限界まで伸ばすことができます。例えば、開脚して足をいっぱいに広げることができれば、身長が高い選手に匹敵する守備範囲を足元で確保できます。
特にハンドボールのキーパー独特の動きである、足を高く振り上げる動作や、Y字バランスのように手足を広げるセービングには、高い柔軟性が求められます。身体が柔らかければ、怪我の予防になるだけでなく、予測外の方向にボールが来た時のリカバリーも効きやすくなります。
毎日のストレッチを欠かさず行い、自分の身体を自在に操れる柔らかさを手に入れることは、小柄なキーパーにとって必須条件と言えるでしょう。
コミュニケーションとリーダーシップで守る
キーパー一人の力で守るのではなく、ディフェンスと協力して守るという意識も重要です。後ろからディフェンスに指示を出し、シュートコースを限定させるのです。「あのシューターは右が得意だから右を切ってくれ」「ロングシュートを警戒してくれ」といった具体的なコーチングを行います。
ディフェンスが特定のコースを塞いでくれれば、キーパーは残りのコースに集中できます。身長が低くても、声を出してチーム全体を統率し、守りやすい状況を作り出すことができれば、失点は確実に減らせます。
信頼される司令塔になること。これは身長に関係なく、努力次第で誰でも目指せる領域であり、チームにとって代えがたい存在になるための重要な要素です。
世界と日本のトップ選手に見る身長の傾向

具体的な目標を持つために、現在活躍しているトップレベルの選手たちがどのくらいの身長なのかを知ることは有益です。世界と日本の傾向、そして例外的な選手の存在について見ていきましょう。
欧州リーグなど世界トップクラスの平均身長
ハンドボールの本場であるヨーロッパのトップリーグでは、ゴールキーパーの大型化が著しく進んでいます。男子の場合、身長190cm台後半から200cmを超える選手が珍しくありません。チャンピオンズリーグなどで活躍する守護神たちは、軒並み2メートル級の巨体を持っています。
彼らはそのサイズを生かした「壁」のようなセービングを基本としつつ、驚くほどの柔軟性とスピードも兼ね備えています。世界標準で戦うには、やはりある程度のサイズが求められているのが現実です。女子選手においても、180cm前後の選手が多く活躍しており、高さが重要な選考基準の一つになっていることは間違いありません。
日本リーグ(JHL)におけるキーパーの身長事情
一方、日本のトップリーグである日本ハンドボールリーグ(JHL)はどうでしょうか。近年は日本人選手の平均身長も伸びてきており、190cm近いキーパーも増えてきました。しかし、世界に比べると平均身長はやや低く、180cm台前半の選手も多く活躍しています。
日本人の特徴として、俊敏性や勤勉なポジショニング、そして相手を分析する緻密さが挙げられます。サイズで劣る分を、組織的なディフェンスとの連携や、個人の高い技術力で補っているのが日本のスタイルと言えるでしょう。高校生や大学生のカテゴリーでも、体格差を技術で覆すシーンは多く見られます。
身長が高くなくても活躍した名選手たち
「身長がすべてではない」ことを証明する名選手たちもいます。例えば、過去には180cmそこそこの身長でありながら、世界最高のキーパーの一人と称された選手も存在しました。彼らに共通しているのは、圧倒的な反応速度、動物的な勘、そして試合の流れを変えるメンタルの強さです。
日本国内でも、小柄ながら日本代表に選出され、国際大会で活躍した選手はいます。彼らは皆、自分の身体的特徴を深く理解し、自分だけの「勝ちパターン」を確立しています。「小さいからダメだ」ではなく、「小さい自分だからこそできる守り方がある」と信じて技術を磨き続けた結果が、トップレベルでの活躍に繋がっているのです。
中学生・高校生がキーパーとして身体作りをするポイント

成長期にある中学生や高校生にとって、技術練習と同じくらい、あるいはそれ以上に大切なのが身体作りです。将来的に身長が伸びる可能性を残しつつ、キーパーとして戦える身体を作るためのポイントを紹介します。
柔軟性と可動域を広げるストレッチ習慣
先ほども触れましたが、キーパーにとって柔軟性は命綱です。特に成長期は骨の成長に筋肉が引っ張られ、身体が硬くなりやすい時期でもあります。この時期に入念なストレッチを行うことは、怪我の予防だけでなく、将来的なパフォーマンス向上に直結します。
股関節周り、肩甲骨、足首の柔軟性は重点的に高めましょう。お風呂上がりや練習後のストレッチを毎日のルーティンにしてください。「継続は力なり」です。身体が柔らかくなれば、身長が急に伸びた時でも、その新しい身体をスムーズに扱いやすくなります。
安定したセービングのための体幹トレーニング
どんなに手足が長くても、身体の軸がぶれていては強いシュートを止めることはできません。空中でボールに触れた時や、激しく接触した時でも姿勢を保てるよう、体幹(コア)を鍛えることが重要です。
プランクや腹筋、背筋などの基礎的なトレーニングを正しく行うことで、空中のバランス感覚が養われます。
体幹が強くなると、手足をムチのようにしなやかに使えるようになり、セービングの威力も増します。また、腰痛の予防にもなるため、長く競技を続けるための土台となります。
身長が伸びる時期に過度なウェイトトレーニングを行うことには賛否ありますが、自重を使った体幹トレーニングは積極的に取り入れて良いでしょう。
成長期における栄養摂取と休息の重要性
最後に、最も重要なのが「成長するための土台作り」です。中高生は人生で最も身長が伸びる可能性を秘めた時期です。この時期に激しい練習をするだけして、栄養が足りていない状態では、本来伸びるはずだった身長も伸び悩んでしまう可能性があります。
身体を作る材料となる「タンパク質」、骨を強くし成長を促す「カルシウム」、エネルギー源となる「炭水化物」などをバランスよく摂取することが不可欠です。しかし、部活動で忙しい毎日の中で、食事だけで必要な栄養素をすべて完璧に補うのは、保護者の方にとっても大変なことです。
また、成長ホルモンは寝ている間に分泌されます。質の高い睡眠を確保することも、立派なトレーニングの一つです。しっかりと食べて、しっかりと寝る。当たり前のことですが、これを徹底できるかどうかが、将来の体格を大きく左右します。もし食事だけで補いきれないと感じる場合は、成長期に必要な栄養をサポートする食品などを上手に活用するのも賢い選択肢の一つと言えるでしょう。
ハンドボールのキーパーは身長と技術のバランスが重要
ハンドボールのキーパーにおいて、身長が高いことは間違いなく大きなアドバンテージです。リーチの長さ、威圧感、高いボールへの対応力など、多くの恩恵があります。しかし、それが全てではありません。足元の処理や俊敏性など、高身長ゆえの課題も存在します。
一方で、身長が高くない選手でも、ポジショニングの妙、相手との駆け引き、そして磨き上げた瞬発力でトップレベルの活躍をすることは十分に可能です。「身長がないから」と諦めるのではなく、自分の体格に合ったプレースタイルを確立することが大切です。
そして何より、中学生や高校生の皆さんはまだ成長の途中です。技術を磨くと同時に、食事や睡眠などの生活習慣を見直し、自分の身体が持つ成長の可能性を最大限に引き出す努力を続けてください。正しい努力と身体作りが、将来の守護神としての道を切り拓く鍵となるはずです。




