「陸上の長距離をやっていると身長が伸びなくなる」という話を耳にしたことはありませんか。部活動やクラブチームで日々練習に励んでいる中学生や高校生、そしてその成長を見守る保護者の方々にとって、この噂は非常に気になるトピックでしょう。もし、大好きな陸上競技を続けることで身長の伸びが止まってしまうとしたら、競技を続けることに迷いが生じてしまうかもしれません。
しかし、結論から言えば、陸上の長距離走という競技そのものが直接的に身長の伸びを止めるという科学的な根拠はありません。では、なぜこのような噂が絶えないのでしょうか。そこには、長距離種目特有の体型傾向や、激しいトレーニングに伴う栄養不足など、いくつかの要因が複雑に関係しています。
この記事では、陸上長距離と身長に関する噂の背景にある真実を解き明かし、成長期のアスリートが身長を最大限に伸ばすために必要な知識と対策をわかりやすく解説します。正しい知識を身につけ、不安なく競技に打ち込める環境を整えていきましょう。
陸上長距離と身長に関する噂の真相を徹底解剖

インターネットや部活動の先輩たちの間では、まことしやかに「長距離ランナーは背が低い」と囁かれることがあります。まずは、この噂がどこから来ているのか、そして実際のところはどうなのかについて、客観的な視点から詳しく見ていきましょう。
なぜ「長距離は背が伸びない」と言われるのか
陸上の長距離選手に小柄な人が多いというイメージは、多くの人が抱いています。このイメージが定着した大きな理由の一つは、テレビ中継されるようなトップアスリートたちの体格にあります。駅伝やマラソンの実業団選手、オリンピック選手などを見ると、確かに比較的小柄で細身の選手が多く活躍している傾向が見られます。
これを見て「長距離走をやり続けたから背が伸びなかったんだ」と解釈してしまう人がいますが、これは因果関係が逆である可能性が高いです。つまり、長距離走をしたから背が縮んだり伸び止まったりしたのではなく、もともと小柄で体重が軽い選手の方が長距離走において有利であり、結果を残しやすかったという側面があります。
長距離走は、自らの体重を長時間運ぶ競技です。体が大きく体重が重い選手よりも、小柄で軽量な選手の方がエネルギー消費を抑えやすく、着地時の衝撃も少ないため、パフォーマンスが高くなりやすいのです。その結果、トップレベルに残る選手には小柄な人が多くなり、それを見た人々が「長距離=背が伸びない」という噂を広めてしまったと考えられます。
トップアスリートの身長データから見る事実
実際に国内外のトップランナーの身長データを見てみると、必ずしも全員が小柄というわけではありません。世界記録を持つような海外の選手の中には、180cmを超える長身の長距離ランナーも数多く存在します。彼らは長い手足を生かしたストライド走法で圧倒的なスピードを持続させており、身長が高いことが決して不利ではないことを証明しています。
日本国内の選手を見ても、近年では身長が高い長距離選手が増えてきています。これはトレーニング方法の進化や、栄養管理の知識が普及したことによって、体格に関わらず高いパフォーマンスを発揮できるようになったことが影響しているでしょう。したがって、「長距離選手だから背が低い」というのはあくまで過去の傾向や一部のイメージに過ぎず、絶対的な法則ではありません。
むしろ、成長期に適切なトレーニングを行うことは、骨や筋肉に適度な刺激を与え、成長ホルモンの分泌を促すため、身長を伸ばすプラスの要因になります。データや事実に基づけば、競技そのものが身長の伸びを阻害しているとは言い切れないのです。
「運動のしすぎ」が成長に与える影響とは
競技そのものは悪くなくても、「運動のしすぎ(オーバートレーニング)」は成長にとってマイナスになる可能性があります。これは陸上長距離に限った話ではありませんが、特に持久系種目は練習時間が長く、消費カロリーが膨大になる傾向があります。
成長期の子どもの体は、大人の体とは異なり、日々の活動エネルギーに加えて、体を大きく成長させるためのエネルギーを必要としています。しかし、毎日の激しい練習で大量のエネルギーを消費してしまうと、本来身長を伸ばすために使われるはずだったエネルギーまで使い果たしてしまうことがあります。
また、過度な運動は体に強いストレスを与え、疲労回復が追いつかない状態を作り出します。慢性的な疲労状態はホルモンバランスを乱し、成長ホルモンの分泌を妨げる原因にもなり得ます。つまり、問題なのは「長距離を走ること」ではなく、「体の許容範囲を超えた過度な負荷」と「リカバリー不足」にあると言えるでしょう。
身長が止まる原因は競技そのものではない
ここまでの話を整理すると、陸上長距離をやっているからといって身長が止まるわけではないことがわかります。もし、長距離に取り組んでいる中高生で身長の伸び悩みを感じている場合、その原因は競技の特性ではなく、もっと別のところにある可能性を探るべきです。
例えば、練習量に見合った食事が摂れていなかったり、睡眠時間が不足していたり、過度なプレッシャーによるストレスを抱えていたりすることは、身長の伸びを停滞させる大きな要因です。また、過度な体重制限を行っている場合も、深刻な栄養不足を引き起こしている可能性があります。
「長距離だから仕方ない」と諦めるのではなく、自分の生活習慣やトレーニング環境を見直すことが重要です。適切な栄養と休養をとれば、激しいスポーツをしていても身長はしっかりと伸びていきます。次章からは、具体的にどのような点に注意すればよいのかを深掘りしていきましょう。
成長期のアスリートが注意すべき「エネルギー不足」

陸上長距離選手が身長を伸ばす上で最も警戒しなければならないのが、「エネルギー不足」です。持久力が必要なこの競技では、知らず知らずのうちに体が飢餓状態に陥り、成長に必要なリソースが枯渇してしまうリスクがあります。
運動量に見合った食事量が足りていない現状
長距離走の消費カロリーは、他のスポーツと比較しても非常に高い水準にあります。例えば、10kmや20kmといった距離を日常的に走る中高生の場合、練習だけで数百から1000キロカロリー以上を消費することも珍しくありません。これに加えて、学校生活や基礎代謝に必要なエネルギーも確保する必要があります。
しかし、多くの選手は「お腹いっぱい食べた」と思っていても、実際には消費したカロリーを補いきれていないことがよくあります。特に成長期は、体が大きくなるために通常よりも多くのカロリーを必要とする時期です。普通の食事量では、激しい運動で消費した分と成長に必要な分の両方を賄うことが難しいのです。
エネルギー収支がマイナスになると、体は生命維持を最優先にするため、骨や筋肉の成長といった「緊急性の低い」機能を後回しにします。その結果、身長の伸びが緩やかになったり、ストップしてしまったりするのです。まずは「自分が思っている以上に食べなければならない」という意識を持つことが大切です。
RED-S(スポーツにおける相対的エネルギー不足)とは
近年、スポーツ医学の世界で注目されている概念に「RED-S(Relative Energy Deficiency in Sport:スポーツにおける相対的エネルギー不足)」というものがあります。これは、食事からのエネルギー摂取量が運動によるエネルギー消費量に追いついていない状態が続くことで引き起こされる、様々な身体機能の障害を指します。
RED-Sの状態に陥ると、身長の伸び悩みだけでなく、免疫力の低下、骨密度の低下、貧血、集中力の欠如など、多岐にわたる悪影響が出ます。特に深刻なのは、ホルモンバランスの崩れです。体が「飢餓状態」と判断すると、性ホルモンや成長に関わるホルモンの分泌が抑制されてしまいます。
女子選手の場合は無月経、男子選手の場合はテストステロンの低下などがサインとして現れることがありますが、初期段階では気づきにくいこともあります。「最近記録が伸びない」「疲れが取れない」「風邪をひきやすい」といった症状がある場合、RED-Sの可能性を疑い、エネルギー摂取量を見直す必要があります。
体重管理と減量が招く成長阻害のリスク
陸上長距離の世界では、「体重が軽いほうが速く走れる」という考え方が根強く残っています。確かに物理的には軽さが有利に働く場面もありますが、成長期における過度な減量や厳しい体重管理は、将来の可能性を摘み取ってしまう危険な行為です。
指導者や周囲の大人から「痩せろ」と言われたり、自分自身で「もっと軽くしなければ」と思い込んだりして、食事の量を減らしてしまう選手は少なくありません。しかし、骨が伸び、筋肉が発達している最中に食事制限を行えば、当然ながら材料不足で体は大きくなれません。
特に危険なのは、炭水化物や脂質を極端にカットすることです。これらは体を動かすための主要なエネルギー源であり、これらが不足すると、体は自分の筋肉や骨を分解してエネルギーを作り出そうとします。これでは本末転倒です。成長期においては、体重の数値よりも、しっかり食べてしっかり練習し、健康的な体を作ることを優先すべきです。
骨の成長に必要な栄養素が枯渇するメカニズム
身長が伸びるということは、骨が伸びるということです。骨が伸びるためには、カルシウムやマグネシウム、リンといったミネラル分と、骨の土台となるタンパク質(コラーゲン)が大量に必要になります。しかし、激しい運動はこれらの栄養素を体外へ排出してしまう側面も持っています。
例えば、大量の汗をかくと、水分と一緒にカルシウムやマグネシウムなどのミネラルも失われます。また、長時間のランニングによる着地衝撃は赤血球を破壊し、鉄分不足(スポーツ貧血)を招きやすいですが、同時に骨の代謝にも影響を与えます。体内の酸性度が上がると、それを中和するために骨からカルシウムが溶け出すという現象も起こり得ます。
つまり、長距離選手は普通の人よりも多くの栄養素を消費・排出しているため、人一倍意識して栄養を摂取しなければ、骨の成長に必要な材料が常に不足した状態になってしまうのです。この「慢行的な材料不足」こそが、身長が伸びない噂の正体の一つと言えるかもしれません。
身長を最大限に伸ばすための食事と栄養戦略

エネルギー不足を防ぎ、骨を健やかに育てるためには、毎日の食事が鍵となります。ここでは、身長を伸ばすために特に意識して摂りたい栄養素と、その効果的な摂取方法について解説します。
骨を強く長くするために不可欠なカルシウムとマグネシウム
「背を伸ばすにはカルシウム」というのは誰もが知っている常識ですが、実はカルシウムだけを摂っていても効果は限定的です。カルシウムが骨として定着するためには、マグネシウムという相棒の存在が欠かせません。理想的な摂取比率は「カルシウム2:マグネシウム1」と言われています。
カルシウムは牛乳や乳製品、小魚、大豆製品に多く含まれていますが、マグネシウムは海藻類、ナッツ類、未精製の穀物(玄米や全粒粉パンなど)に多く含まれています。現代の食生活ではマグネシウムが不足しがちなので、意識してわかめやアーモンドなどをメニューに取り入れると良いでしょう。
また、カルシウムの吸収を助けるビタミンDも重要です。ビタミンDは魚類やキノコ類に含まれるほか、日光を浴びることで体内で生成されます。屋外で練習する陸上選手は比較的ビタミンDを作りやすい環境にありますが、食事からも積極的に補うことで、より骨を強くすることができます。
筋肉と骨の材料となるタンパク質の賢い摂り方
身長を伸ばす上で、タンパク質も極めて重要な役割を果たします。骨の端にある軟骨部分(骨端線)が増殖し、それが硬い骨に置き換わることで身長は伸びますが、この軟骨の主成分はタンパク質の一種であるコラーゲンです。また、骨を支える筋肉を発達させるためにもタンパク質は不可欠です。
肉、魚、卵、大豆製品などから良質なタンパク質を毎食摂取しましょう。特に運動直後は筋肉の合成が高まるゴールデンタイムと言われていますが、成長ホルモンが多く分泌される就寝前の食事(夕食)でもしっかりとタンパク質を摂ることが推奨されます。
一度に大量に摂っても体内で吸収できる量には限界があるため、朝・昼・晩の3食に分けてこまめに摂取するのがポイントです。また、動物性タンパク質(肉・魚)と植物性タンパク質(大豆など)をバランスよく組み合わせることで、アミノ酸のバランスが整い、より効率的に体づくりに役立てることができます。
エネルギー源としての炭水化物の重要性
「太るから」といってご飯やパンなどの炭水化物を控える選手がいますが、これは成長期のアスリートにとって大きな間違いです。炭水化物は体を動かすガソリンであり、脳の唯一のエネルギー源でもあります。炭水化物が不足すると、体は筋肉を分解してエネルギーに変えてしまうため、せっかくのトレーニング効果が薄れるだけでなく、成長のためのエネルギーも奪われます。
長距離選手の場合、練習でグリコーゲン(糖質エネルギー)を大量に消費するため、毎食しっかりとご飯を食べる必要があります。練習前には消化の良いおにぎりやバナナでエネルギーをチャージし、練習後には速やかに炭水化物を補給してリカバリーを図りましょう。
炭水化物を十分に摂ることで、タンパク質がエネルギーとして使われるのを防ぐ「タンパク質の節約効果」も期待できます。つまり、ご飯をしっかり食べることは、結果的にタンパク質を骨や筋肉の成長に回すことにつながるのです。
食事だけで必要な栄養をすべて賄うことの難しさ
ここまで必要な栄養素について説明してきましたが、これらをすべて毎日の食事だけで完璧に摂取するのは、現実的にはかなりハードルが高いことです。特に運動量が多い部活生の場合、必要なカロリーと栄養素の量は成人の基準を遥かに超えることがあります。
学校や部活で忙しい中、朝から晩まで栄養バランスを考えた大量の食事を用意し、それをすべて食べ切ることは、選手本人にとってもサポートする家族にとっても大きな負担となります。また、食が細い選手や、練習疲れで食欲がわかない選手にとって、無理に詰め込む食事はストレスにもなりかねません。
そのような場合は、食事にプラスして栄養補助食品やサプリメントを上手に活用するのも一つの賢い手段です。不足しがちなカルシウムやビタミン、タンパク質などを手軽に補うことで、栄養バランスの底上げを図ることができます。あくまで基本は食事ですが、頑張りすぎずに便利なアイテムに頼る柔軟さも、長く競技を続ける上では大切です。
成長ホルモンを分泌させる睡眠と生活習慣のポイント

栄養と同じくらい、あるいはそれ以上に身長の伸びに影響を与えるのが「睡眠」です。寝ている間に体内ではどのような変化が起きているのか、そして質の高い睡眠をとるためにはどうすればよいのかを確認しましょう。
「寝る子は育つ」は本当?成長ホルモンと睡眠の関係
昔から言われる「寝る子は育つ」という言葉は、医学的にも正しい事実です。身長を伸ばす鍵となる「成長ホルモン」は、起きている間よりも寝ている間に集中的に分泌されます。特に、眠りについてから最初に訪れる深い眠り(ノンレム睡眠)の間に、1日の分泌量の大半が放出されると言われています。
睡眠時間が短かったり、眠りが浅かったりすると、この成長ホルモンの分泌チャンスを逃してしまいます。また、睡眠は激しいトレーニングで傷ついた筋肉や骨を修復する時間でもあります。しっかりと眠ることは、身長を伸ばすだけでなく、怪我の予防やパフォーマンス向上にも直結する重要なトレーニングの一部なのです。
中高生であれば、理想的には8時間程度の睡眠時間を確保したいところです。忙しい毎日の中で時間を捻出するのは大変ですが、身長を伸ばしたいのであれば、睡眠時間を削ることは絶対に避けるべきです。
深い眠りにつくための入浴とリラックス方法
睡眠の質を高めるためには、寝る前の準備が大切です。効果的な方法の一つが、湯船に浸かって入浴することです。38〜40度くらいのぬるめのお湯にゆっくり浸かることで、副交感神経が優位になり、心身ともにリラックスモードに切り替わります。
入浴によって一時的に体温が上がり、その後お風呂から上がって徐々に体温が下がっていくタイミングで布団に入ると、自然と深い眠りに落ちやすくなります。シャワーだけで済ませず、できるだけ湯船に浸かる習慣をつけましょう。
また、寝る前にストレッチをするのもおすすめです。長距離走で硬くなった筋肉をほぐすことで血行が良くなり、疲労物質の除去が進むとともに、リラックス効果で安眠を誘います。好きな音楽を聴いたり、アロマを焚いたりして、自分なりのリラックスタイムを作るのも良いでしょう。
スマートフォンやゲームとの付き合い方
現代の中高生にとって、睡眠の質を下げる最大の敵はスマートフォンやゲーム機かもしれません。これらの画面から発せられるブルーライトは、脳を覚醒させ、睡眠ホルモンである「メラトニン」の分泌を抑制してしまいます。
布団に入ってからもSNSをチェックしたり動画を見たりしていると、脳が「今は昼間だ」と勘違いしてしまい、なかなか寝付けなかったり、眠りが浅くなったりします。結果として成長ホルモンの分泌が阻害され、身長の伸びに悪影響を及ぼす可能性があります。
理想は、就寝の1時間前にはデジタル機器を手放すことです。部屋の照明を少し暗くして、読書をしたり、明日の準備をしたりして静かに過ごす習慣をつけましょう。どうしてもスマホを見る必要がある場合は、ブルーライトカット機能を活用するなどの工夫が必要です。
激しい練習後の身体ケアと休息の重要性
毎日の練習で体は大きなダメージを受けています。このダメージを放置したまま次の日の練習を迎えることは、成長のためのエネルギーを修復だけに浪費させることになりかねません。練習後のクールダウンやストレッチはもちろん、アイシングやマッサージなどのセルフケアを徹底しましょう。
また、時には「完全休養日」を作る勇気も必要です。真面目な選手ほど「休むと弱くなる」と考えがちですが、休養こそが体を強くし、大きくする時間です。週に1日は練習を休み、心身をリフレッシュさせることで、長期的な成長の土台を作ることができます。
体の痛みや違和感を無視して練習を続けると、疲労骨折などの大きな怪我に繋がるだけでなく、体内の炎症反応によって成長が妨げられることもあります。自分の体の声に耳を傾け、無理をしすぎないことが、結果的に身長を伸ばす近道となります。
遺伝だけではない?身長の伸びを左右する要因

「両親が小さいから自分も大きくならない」と諦めていませんか?確かに遺伝は大きな要因ですが、それだけですべてが決まるわけではありません。ここでは、遺伝以外の隠れた要因についても目を向けてみましょう。
遺伝が身長に与える影響の割合と環境要因
身長における遺伝の影響は約80%と言われていますが、残りの20%は環境要因、つまり食事、睡眠、運動などの生活習慣によって決まります。この「20%」は決して小さな数字ではありません。例えば、遺伝的に予測される身長が170cmだったとしても、環境要因を最適化することでプラス数センチ、あるいはそれ以上の伸びを実現できる可能性があります。
逆に言えば、どんなに高身長の遺伝子を持っていても、栄養不足や睡眠不足が続けば、本来到達できるはずだった身長まで伸びないこともあります。遺伝はあくまで「設計図」であり、実際に家(体)を建てるのは日々の材料(栄養)と大工さん(ホルモンや睡眠)の働きなのです。
「どうせ遺伝だから」と努力を放棄するのではなく、「環境要因でどこまで伸ばせるか挑戦する」という前向きな姿勢が大切です。特に成長期という限られた時間の中では、努力次第で結果が変わる余地が十分にあります。
ストレスが成長ホルモンの分泌を妨げる可能性
精神的なストレスも身長の伸びに大きく関わっています。強いストレスを感じると、コルチゾールというホルモンが分泌されますが、このコルチゾールには成長ホルモンの働きを阻害したり、骨の形成を邪魔したりする作用があることが知られています。
長距離選手は、タイムへのプレッシャーや厳しい練習、上下関係などでストレスを抱えやすい環境にいるかもしれません。「勝たなければならない」「速くならなければならない」という思いが強すぎると、それが慢性的なストレスとなり、体の成長を止めるブレーキになってしまうことがあります。
競技を楽しむ心を持つこと、悩みがあれば信頼できる人に相談すること、そして陸上以外の趣味や息抜きの時間を持つことが大切です。心の健康は体の成長と密接にリンクしています。
姿勢の悪さや体の歪みが与える隠れたデメリット
意外と見落とされがちなのが、普段の姿勢です。猫背や反り腰などの悪い姿勢は、脊椎(背骨)の自然なカーブを歪め、実際の身長よりも低く見せてしまうだけでなく、骨の正常な成長を妨げる可能性もあります。
長距離走では、疲れてくると背中が丸まったり、腰が落ちたりしやすいですが、普段の生活でもスマホを見るために下を向いてばかりいると、首や背中の骨に負担がかかります。背骨や関節に適切な負荷がかかることで骨は成長しますが、歪んだ方向への負荷は逆効果です。
正しい姿勢を保つことは、体幹の筋肉を鍛えることにもなり、ランニングフォームの改善にもつながります。普段から背筋を伸ばし、胸を張って生活することを意識するだけで、見た目の身長も変わり、骨の健やかな成長をサポートできます。
成長期のピーク(スパート)を逃さないために
身長には、一生の中で最も伸びる時期「成長スパート」があります。一般的には、男子は13歳頃、女子は11歳頃にピークを迎えますが、個人差があります。この重要な時期に、これまで説明してきた「栄養・睡眠・適度な運動」がしっかりと満たされているかどうかが、最終身長を大きく左右します。
スパート期に過度な減量をしたり、試験勉強で睡眠時間を削ったりするのは非常にもったいないことです。自分の成長曲線を記録し、身長が急に伸び始めたなと感じたら、そこが勝負の時です。食事の量を増やし、睡眠を優先し、体づくりに全力を注ぐべきタイミングです。
この貴重な時期を逃さないためにも、日頃から身長を測り、自分の体の変化に関心を持つようにしましょう。親御さんと協力して、生活習慣全体を見直す良い機会にしてください。
陸上長距離と身長の噂に惑わされず成長期を過ごす
陸上長距離に取り組む中高生の皆さん、そして保護者の皆様にとって、身長に関する不安は尽きないかもしれません。しかし、今回詳しく解説してきた通り、長距離走という競技そのものが身長の伸びを止めるという事実はありません。むしろ、適度な運動は成長を促すポジティブな要素です。
注意すべきは、競技特性ゆえに陥りやすい「エネルギー不足」と「回復不足」です。消費したエネルギー以上にしっかり食べること、骨の材料となる栄養素を不足させないこと、そして質の高い睡眠で成長ホルモンを十分に分泌させることが、身長を伸ばすための絶対条件です。
噂に惑わされて大好きな陸上競技を諦める必要はありません。正しい知識を持って、食事や生活習慣を工夫すれば、競技力の向上と身長の伸びは両立できます。自分の体の可能性を信じて、日々のトレーニングと生活の質を高めていってください。



