「ラグビーは体が大きくないと勝てない」そんな風に思っていませんか?テレビで見る日本代表や海外の選手たちは、確かに大柄な選手が多いかもしれません。そのため、身長が低いことに対して「タックルで吹き飛ばされるのではないか」「試合で活躍できないのではないか」と不安を感じている選手や保護者の方も多いでしょう。
しかし、実はラグビーにおいて「身長が低い」ということは、特定のプレー、特にタックルやボール争奪戦において「圧倒的な強み」になり得るのです。世界を見渡しても、小柄ながら巨漢選手をなぎ倒す「小さな巨人」たちは数多く存在します。この記事では、なぜ低い身長が武器になるのか、その物理的な理由から、具体的な活かし方までを徹底解説します。
身長が低いことは不利じゃない!ラグビーのタックルにおける「物理的な強み」

まず理解しておきたいのは、ラグビーのコンタクトプレーにおける物理的なメカニズムです。身長が低いことが、なぜタックルにおいて有利に働くのか、その理由を紐解いていきましょう。
重心が低いと「倒れにくい」
物体が安定するための最大の要因は「重心の低さ」です。背の高い選手は重心が高くなりがちで、足元をすくわれるとバランスを崩しやすいという特徴があります。一方で、身長が低い選手は自然と重心が地面に近い位置にあります。
これは、背の高い積み木と低い積み木を想像するとわかりやすいでしょう。低い積み木の方が、横から押されても倒れにくいですよね。ラグビーでも同様で、重心が低い選手は相手と衝突した際にバランスを保ちやすく、当たり負けしにくいという強力な物理的アドバンテージを最初から持っているのです。
「てこの原理」で大きな相手を崩す
タックルは力だけの勝負ではありません。「てこの原理」をうまく使うことで、自分よりはるかに重い相手を倒すことができます。相手の重心(腰やお腹付近)よりも低い位置に自分の肩を当てることができれば、少ない力で相手のバランスを崩すことが可能です。
身長が高い選手が低く入ろうとすると、膝を大きく曲げて姿勢を低くする「余分な動作」が必要になります。しかし、身長が低い選手は、少し膝を曲げるだけで相手の懐(ふところ)深くに入り込むことができます。つまり、無理のない自然な姿勢で、最も力が出る角度から相手にぶつかることができるのです。
地面からの力を利用できる
強いタックルを生み出す源は「地面反力」です。これは地面を強く踏み込んだ時に跳ね返ってくる力のことを指します。身長が低い選手は、足とコンタクトポイント(肩)の距離が近いため、地面を蹴った力が分散せずにダイレクトに相手に伝わりやすいというメリットがあります。
背が高いと、どうしても体が「くの字」になりやすく、力が逃げてしまうことがあります。小柄な選手が一直線の姿勢で地面を捉えた時の爆発力は、時に体重差を覆すほどの威力を発揮します。これが、小柄な選手が大型選手を仰向けに倒せる理由の一つです。
低い身長を活かす!小柄な選手こそ極めたいタックル技術

物理的な有利さを理解したところで、次は実践的なテクニックの話に移りましょう。身長が低いからこそ習得しやすい、そして効果的なタックルの種類があります。
相手の膝下を刈り取る「チョップタックル」
「チョップタックル(ロータックル)」は、相手の膝や足首を狙って鋭く入り、足を刈り取る技術です。身長が高い選手にとって、足元は死角になりやすく、また手も届きにくいエリアです。小柄な選手が視界の外から低い軌道で飛び込んでくると、大柄な選手は反応できずに倒れてしまいます。
このタックルは、相手を一発で倒せるだけでなく、相手がボールを繋ぐ(オフロードパス)のを防ぐ効果もあります。地面スレスレの低空飛行で入るこのタックルは、小柄な選手にとっての「必殺技」と言えるでしょう。
懐に潜り込む「スマザータックル」
相手の上半身とボールを同時に抱え込む「スマザータックル」においても、身長が低いことは武器になります。相手の下から突き上げるように胸元へ入ることで、相手の体を浮かせることができるからです。
相手の足が地面から離れれば、どれだけ体重があっても踏ん張ることはできません。下から突き上げる動作は、背の低い選手の方がスムーズに行えます。相手のボールを殺しながら前進を止めるこのプレーは、チームのピンチを救う大きなビッグプレーになります。
「ダブルタックル」での役割分担
現代ラグビーでは、一人に対して二人でタックルに行く「ダブルタックル」が主流です。この時、身長が低い選手は迷わず「下(ロータックル)」を担当します。小柄な選手が相手の足を確実に止めることで、もう一人の味方(背の高い選手など)がボールに絡みに行くことができます。
「自分が止めて、味方が奪う」という明確な役割分担ができるのも、低いタックルを武器にできる選手がいるからです。チームディフェンスにおいて、確実に相手を倒してくれる低いタックラーは信頼の要となります。
反則を誘発しやすいポジション取り
最近のルール改正では、首から上への「ハイタックル」に対する判定が非常に厳しくなっています。身長が低い選手がボールを持って攻める場合、相手ディフェンスはかなり姿勢を低くしないと、タックルが首にかかってしまいやすくなります。
つまり、立っているだけで相手に「反則を犯すリスク」を負わせることができるのです。相手がペナルティを恐れてタックルの勢いを緩めれば、そこが突破のチャンスになります。これは小柄な選手ならではの、隠れた大きなメリットです。
怪我のリスクを下げる「ヘッドポジション」
タックルで最も怖いのは、頭を打つことによる脳震盪などの怪我です。身長差がある相手にタックルに行く際、背の高い選手同士だと頭の位置が高くなり、バッティングするリスクがあります。
しかし、身長が低い選手が正しいフォーム(相手の腰より下に頭を入れる)でタックルに入れば、相手の膝や腰といった硬い骨に頭をぶつけるリスクをコントロールしやすくなります。正しい「低さ」を身につけることは、パフォーマンス向上だけでなく、自分の体を守る安全対策にも繋がります。
タックルだけじゃない!コンタクトエリアで輝く「ジャッカル」の強み

身長が低いことのメリットは、タックルして倒した後にも続きます。相手のボールを奪うプレー「ジャッカル」において、小柄な選手は世界的な名手になれる可能性を秘めています。
ボールに到達するスピードが速い
ジャッカルを成功させるには、相手が倒れた瞬間に、誰よりも早くボールに手をかける必要があります。身長が低い選手は地面との距離が近いため、タックル後の次の動作へ移行する時間が短くて済みます。
背の高い選手が一度体を折り曲げてからボールに手を伸ばすのに対し、小柄な選手はスムーズに体を被せることができます。この「コンマ数秒」の差が、ボールを奪えるかどうかの分かれ目になります。
相手に剥がされにくい「低い姿勢」
ジャッカルに入った選手に対して、相手チームは「オーバー(スイープ)」といって、体をぶつけて剥がそうとしてきます。この時、ジャッカルに入っている選手の姿勢が低ければ低いほど、相手は剥がすのが困難になります。
小柄な選手が足を開いてしっかりと地面を踏ん張り、ボールに食らいついている姿は、まるで岩のように動きません。相手は下からすくい上げることができず、結果として「ノット・リリース・ザ・ボール」の反則を勝ち取ることができます。
密集地帯での「すり抜け」スキル
ラックやモールといった密集地帯では、大柄な選手たちが壁となって押し合っています。そんな中、小柄な選手はその隙間を縫うようにして相手の懐に入り込んだり、ボールを持ち出したりすることができます。
「小さくて見えにくい」こと自体が、相手のディフェンス網を混乱させる武器になります。密集のサイドをちょこんと抜け出してトライを奪うシーンは、小柄なスクラムハーフやフランカーの選手によく見られる光景です。
低い姿勢を極めるための身体作りとトレーニング

身長が低いことのメリットを最大限に活かすためには、ただ小さいだけでは不十分です。「強く、低く、速い」体を作るためのトレーニングが不可欠です。
股関節の柔軟性を高める
「低く入れ」と言われて、背中を丸めて頭を下げてしまうのは危険な間違いです。正しい低い姿勢とは、背筋を伸ばしたまま、股関節と膝をしっかり曲げて腰を落とすことです。
そのためには、股関節周りの柔軟性が非常に重要になります。お相撲さんの「四股(しこ)」のような動作や、深いスクワットなどで股関節の可動域を広げましょう。柔軟性があれば、相手の動きに合わせて瞬時に低い体勢をとることができ、怪我の予防にもなります。
体幹(コア)を徹底的に鍛える
小さな体で大きな衝撃に耐えるには、強靭な「体幹」が必要です。タックルの瞬間に体がぶれないように固める力、ジャッカルで相手に押されても耐える力、これらはすべて腹筋や背筋、インナーマッスルから生まれます。
プランクなどの静的なトレーニングだけでなく、動きの中で姿勢をキープするトレーニングを取り入れましょう。体幹が強ければ、空中でのバランス感覚も良くなり、倒されにくい選手になります。
首の強さは勇気の源
低いタックルに入り続けるには、首の強さが欠かせません。首が弱いと、衝撃で頭が振られてしまい、脳へのダメージやむち打ちのリスクが高まります。
首を鍛えることで、コンタクト時の衝撃を吸収し、頭の位置を安定させることができます。「首が太い選手は強い」とよく言われますが、これは安全にプレーし続けるための必須条件でもあります。専門家の指導のもと、無理のない範囲で首の強化に取り組みましょう。
瞬発力とアジリティ(敏捷性)
小柄な選手の最大の防御は「捕まらないこと」です。一歩目の爆発的なスピードや、左右に素早く動くステップワークを磨きましょう。
ラダーを使ったトレーニングや、短い距離のダッシュを繰り返すことで、大型選手がついてこられないスピードを身につけることができます。相手が反応する前に懐に入り、相手が追いつく前に抜き去る。このスピードこそが、フィジカル差を無効化する鍵です。
身長の悩みと向き合うメンタルと将来の可能性

ここまで、低い身長のメリットを解説してきましたが、それでも「もっと身長が高ければ…」と悩むことはあるでしょう。最後に、その悩みとの向き合い方についてお話しします。
恐怖心に打ち勝つ「勇気」
小柄な選手が大型選手に向かっていくには、何よりも「勇気」が必要です。しかし、その勇気あるプレーは、チーム全体を鼓舞します。自分より大きな相手を倒す姿は、観客やチームメイトに強烈な印象と感動を与えます。
恐怖心は、正しい技術と身体作りへの自信で克服できます。「自分はこの角度なら絶対に負けない」という自信がつくまで練習を繰り返すことで、恐怖は闘争心へと変わっていきます。
「小さいからこそ」の視点を持つ
世界で活躍する小柄な選手たちは、自分のサイズを言い訳にしません。むしろ「相手が自分を捕まえにくい」とポジティブに捉えています。自分自身の特徴を深く理解し、それを戦略に組み込む賢さを持っています。
ラグビーは15人それぞれの役割が異なるスポーツです。全員が大きくある必要はありません。自分のサイズだからこそできる役割を見つけ、それを極めることが一流への近道です。
成長期における身体作りも大切に
現在は小柄であることを武器にする戦い方を磨くべきですが、中学生や高校生の年代は、まだ体が成長する可能性を秘めている時期でもあります。ラグビーのスキルを磨くと同時に、将来的なフィジカルの器を大きくするための努力も並行して行うことが理想的です。
身長がすべてではありませんが、少しでもフィジカルのベースアップができれば、プレーの選択肢はさらに広がります。日々の食事や睡眠、そして栄養摂取に気を配ることは、今のパフォーマンスだけでなく、将来の選手としての可能性を広げることにも繋がります。
まとめ:ラグビーでは身長が低いことも強力な武器になる
ラグビーにおいて、身長が低いことは決してネガティブな要素ではありません。物理的なメカニズムを理解し、正しい技術を身につければ、それは「相手にとってこれほど厄介なことはない」という強力な武器に変わります。
重心の低さを活かした強烈なタックル、地面に近い利点を活かしたジャッカル、そして相手の反則を誘う俊敏な動き。 これらは大柄な選手には真似できない、選ばれし者のプレースタイルです。
今の自分の体格を嘆くのではなく、その体だからこそできるプレーを極めてください。そして同時に、これからの成長期を大切にし、栄養と休養をしっかりとることで、心技体すべてにおいて強いラガーマンを目指していきましょう。あなたのその「低さ」が、チームを勝利へ導く鍵になるはずです。




