「身長が高い方が、やっぱり速い球を投げられるの?」
「背が低い自分は、エースになるのは難しいのかな……」
野球に取り組む選手や、その保護者の方なら、一度はこのような疑問を持ったことがあるのではないでしょうか。
プロ野球選手を見ても、確かに大型の投手が多く活躍しています。しかし、小柄ながらも驚くような豪速球を投げる投手がいるのも事実です。
この記事では、野球のピッチャーにおける「身長」と「球速」の深い関係について、物理学的な視点や身体の仕組みからやさしく解説します。
さらに、身長という才能の壁を越えて球速を上げるためのメカニズムや、成長期の選手が大切にしたい生活習慣まで、詳しく紐解いていきましょう。
体格に恵まれた選手も、これから身体を大きくしたい選手も、それぞれの強みを活かすヒントが必ず見つかるはずです。
野球のピッチャーにおいて身長と球速に関係はあるのか?物理的な視点で解説

まず結論からお伝えすると、野球の投手において「身長と球速には相関関係がある」というのは、多くのデータや物理の法則が示している事実です。
しかし、これは「背が高ければ必ず速い球が投げられる」という意味ではありませんし、「背が低いと速い球が投げられない」ということでもありません。
なぜ一般的に身長が高い方が有利と言われるのか、その物理的な理由を3つのポイントに分けて見ていきましょう。
長い腕が生み出す「遠心力」と「並進運動」のエネルギー
身長が高い選手は、当然ながら手足も長い傾向にあります。ピッチングにおいて、この「腕の長さ」は大きな武器になります。
ボールを投げる動作を回転運動として捉えたとき、回転の中心(身体の軸)からボールを持つ指先までの距離が長ければ長いほど、同じ回転スピードでも指先の移動速度は速くなります。
これは「遠心力」が大きく働くためです。ハンマー投げをイメージするとわかりやすいかもしれません。紐が長いほど、先端の鉄球は凄まじいスピードで回ります。
ピッチャーの腕もこれと同じ原理で、長い腕をムチのようにしならせて振ることで、物理的にボールへ伝えられるエネルギーが大きくなりやすいのです。
リリースポイントの距離と打者までの到達時間
身長が高いことのもう一つの物理的な恩恵は、「打者により近い位置でボールを離せる」という点です。
背が高い選手は、投球フォームの中で踏み出す足の歩幅(ストライド)も広くなる傾向があります。一般的に、投手は身長の6足〜7足分の歩幅で投げると良いと言われていますが、元の身長が高ければ、その分だけホームベースに近い場所まで身体を運べます。
さらに、腕が長ければリリースポイント(ボールを離す位置)もさらに前になります。
マウンドからホームベースまでの距離は18.44メートルと決まっていますが、実際にボールが空中を飛んでいる距離は、リリースの位置によって変わります。
リリースが10センチ前になるだけで、打者の体感速度は数キロ上がると言われています。つまり、身長が高いことは「物理的な球速」だけでなく、打者を追い込むための「距離の短縮」にも貢献しているのです。
位置エネルギーの活用と角度のあるボール
高いところから物を落とすと、地面にぶつかる時の衝撃が大きくなることはご存知かと思います。これを「位置エネルギー」と呼びます。
ピッチングもマウンドという傾斜を使って、高い位置から低い位置へ向かってエネルギーを解放する運動です。
高身長の投手は、より高い位置エネルギーを持った状態から投球動作をスタートできます。上から下へと体重移動を行う際、その落差が大きければ大きいほど、強いエネルギーをボールに乗せやすくなります。
また、高いリリースポイントから投げ下ろされるボールには角度がつきます。この「角度」については、次の章でさらに詳しくメリットを解説しますが、物理的なエネルギー保存の観点からも、身長の高さは球威を生み出すための素質として非常に有利に働くのです。
物理の法則を味方につける
身長が高い選手は、無意識のうちにこれらの物理的恩恵を受けています。しかし、自分の身体のサイズを理解し、あえて「大きく大きく使う」意識を持つことで、そのメリットを最大化させることができます。縮こまって投げてしまっては、せっかくの「長さ」という武器が台無しになってしまいます。
身長が高い投手が得られる具体的なメリットと打者への影響

前章では物理的なエネルギーの話をしましたが、実際の試合において、高身長ピッチャーは打者に対してどのような「やりにくさ」を与えているのでしょうか。
数字上の球速(スピードガンの表示)以上に、打者が感じる「圧」や「打ちにくさ」には、身長が大きく関係しています。
「角度」が生み出す視覚的な錯覚と打ちにくさ
身長が高い投手の一番の武器は、やはり「投げ下ろす角度」です。
打者の目は、水平に近い軌道には慣れやすいですが、極端な角度がついたボールの軌道を捉えるのには苦労します。
例えば、身長190センチの投手がオーバースローで投げた場合、ビルの2階からボールが降ってくるような感覚を打者は覚えます。
この「ダウンアングル(角度)」があると、バットとボールの軌道が交わる点(インパクトゾーン)が点になりやすく、芯で捉えるのが非常に難しくなります。
逆に、角度のないボールはバットの軌道と重なる線が長くなるため、多少タイミングがずれてもヒットになりやすいのです。
体感速度の向上と反応時間の短縮
先ほど少し触れた「リリースポイントの近さ」は、打者の反応時間に直結します。
スピードガンの表示が同じ140km/hだったとしても、身長が高い投手が大きく踏み込んで投げた140km/hは、打者の手元に届くまでの時間が短くなります。
野球の世界ではこれを「体感速度」と呼びます。リリースが前であればあるほど、打者は「ボールが急に目の前に現れた」ように感じます。
判断する時間がコンマ数秒でも削られることは、打者にとって致命的です。この「見えにくさ」と「到達時間の早さ」が組み合わさることで、高身長投手は数字以上の威圧感を発揮することができるのです。
フィジカルの容量と耐久性のポテンシャル
少し視点を変えて、身体の「器」としてのメリットも考えてみましょう。
身長が高く骨格が大きいということは、それだけ多くの筋肉をつけるスペース(表面積)があることを意味します。
エンジンの排気量が大きい車が、無理なく高速走行できるように、身体が大きい選手は絶対的なパワー出力の最大値が高くなりやすいのです。
また、同じ100の力を出すにしても、身体の大きい選手にとってはそれが80%の出力で済むかもしれません。一方で小柄な選手が100の力を出すには120%の努力が必要になる場合もあります。
長いシーズンを戦い抜くための「耐久性」や、将来的な「伸びしろ」という観点でも、大きなフレーム(骨格)を持っていることは、投手としての大きなアドバンテージになり得るのです。
身長が低くても球速は出る!小柄な好投手が実践する「速球」の秘訣

ここまで身長が高いことのメリットばかりを並べてきましたが、ここで諦める必要は全くありません。
日本のプロ野球界、そして世界を見渡しても、170cm前後の身長で150km/hを超える豪速球を投げる投手は数多く存在します。
彼らはどのようにして、体格のハンデを覆しているのでしょうか?そこには明確な戦略と技術があります。
全身を使った「回転速度」の最大化
腕が短いなら、その分「回転」を速くすればいい。これが小柄な投手が球速を出すための基本的な考え方です。
フィギュアスケートの選手がスピンをする時、手を広げるよりも身体に密着させた方が高速で回転できるのを見たことがあるでしょう。
小柄な投手は、身体の軸をコンパクトに使い、爆発的なスピードで回転することで、長い腕を持つ投手にも負けない遠心力を生み出しています。
この「キレ」のある回転動作こそが、小柄な投手の生命線です。身体の中心(体幹)から生み出したエネルギーを、一瞬のスパークのように指先に伝える技術を磨くことで、驚くような球速を記録することが可能です。
低いリリースポイントが生む「ホップ成分」の効果
背が低いことは、実は大きな武器にもなり得ます。それが「低いリリースポイント」です。
高身長の投手が「角度」で勝負するなら、小柄な投手は「浮き上がるような軌道」で勝負します。
低い位置から放たれたボールは、地面とほぼ平行に近い角度でホームベースへ向かいます。さらに、強いバックスピンがかかっていると、重力に逆らう揚力が生まれ、打者の目にはボールが「ホップしている(浮き上がってくる)」ように映ります。
打者は通常、ボールは重力に従って落ちてくるものと予測してバットを出します。しかし、小柄な投手の球は予測よりも落ちてこないため、打者はボールの下を振って空振りしてしまうのです。
この「錯覚」を利用できるのは、低い位置から投げられる投手の特権です。
強靭な下半身が生み出す「床反力」の活用
物理的なリーチ(長さ)で劣る分、小柄な投手は「地面の力」を誰よりも上手く使う必要があります。
これを「床反力(じめんはんりょく)」と呼びます。投球動作において、踏み出した足で地面を強く蹴り、その跳ね返ってくる力を指先まで伝達させる技術です。
小柄な豪速球投手の多くは、例外なく強靭な下半身を持っています。太ももやお尻周りの筋肉が発達しており、マウンドを強く押す力に優れています。
「小さな巨人」と呼ばれるような投手たちは、身体全体をバネのように使い、地面から得たエネルギーをロスなくボールに乗せる達人なのです。
柔軟性と「しなり」による加速
筋肉量や骨格の大きさで勝てなくても、「柔らかさ」で勝つことは可能です。
特に、胸郭(肋骨周り)や股関節、そして手首の柔軟性は球速に直結します。小柄な投手は、身体が柔らかいことで、より大きな可動域を確保できるケースが多くあります。
弓矢をイメージしてください。弓を大きく引けば引くほど、矢は遠くへ速く飛びます。人間の身体も同じで、柔軟性があれば身体を大きく反らせて「しなり」を生み出すことができます。
この全身のしなりを使って、ムチが空気を切り裂くようなスナップを効かせることで、体格差を埋めるほどの加速力をボールに与えているのです。
球速アップのために必要な身体作りとメカニズムの改善

身長に関わらず、球速を上げるためには共通して取り組むべき身体作りとメカニズムのポイントがあります。
ただ闇雲に投げ込むだけでは球速は上がりません。科学的な視点で、効率よくボールに力を伝えるための要素を確認しましょう。
運動連鎖をスムーズにする「並進運動」と「回転運動」
ピッチングは「運動連鎖」のスポーツです。足の裏から始まり、膝、腰、体幹、肩、肘、そして指先へと力が伝わっていく流れが重要です。
まずは、マウンドの傾斜を使って横向きに移動する「並進運動」。ここで作った勢いを、踏み込み足が着地した瞬間に「回転運動」へと変換します。
この変換がスムーズに行かないと、力が分散してしまいます。よくあるのが「身体の開きが早い」状態です。下半身は回転しようとしているのに、上半身も一緒に早く回ってしまうと、身体の捻転差(ねじれ)が生まれず、パワーが逃げてしまいます。
下半身が着地しても、上半身はまだ横を向いているような「割れ」を作る動き。この一瞬の「タメ」こそが、爆発的な球速を生む鍵となります。
肩甲骨と胸郭の可動域を広げる
「肩が強い」という言葉がありますが、実際には肩の筋肉だけで投げているわけではありません。球速アップに欠かせないのが、肩甲骨と胸郭(胸周り)の動きです。
肩甲骨は、腕の付け根となる土台です。この土台が背中の上で自由に動くことで、腕をより後ろに引くことができ、加速するための助走距離を稼ぐことができます。
また、胸郭が柔らかいと、胸を大きく張ることができます。よく「胸を張って投げろ」と言われますが、これは胸の筋肉をゴムのように引き伸ばし、その縮む力を利用して腕を振るためです。
毎日のストレッチで肩甲骨周りを柔らかく保つことは、筋トレで筋肉を大きくすることと同じくらい、あるいはそれ以上に球速アップには重要です。
指先への「力の伝達」を極める
どんなに身体で大きなエネルギーを作っても、最後にボールに触れているのは「指先」です。
リリースの一瞬に、ボールに100%の力を伝えきれるかどうかが、130km/h止まりの投手と140km/hを超える投手の分かれ道になります。
ここで重要なのが「ゼロポジション」という考え方です。肩関節への負担が最も少なく、かつ力が入りやすい腕の位置のことです。
また、ボールを離す瞬間の握力や、手首を立てる感覚も大切です。リリースの瞬間に「パチン」と弾く感覚を養うために、指先の感覚を鋭敏にするトレーニング(スナップスローなど)も有効です。
メモ:筋力トレーニングの重要性
もちろん、ベースとなる筋力も必要です。特に「アクセル筋」と呼ばれる大臀筋(お尻)や広背筋(背中)と、「ブレーキ筋」と呼ばれるインナーマッスルのバランスが大切です。強い力で腕を振るには、それを支えて止めるためのブレーキ機能もしっかりしていないと、脳が危険を感じて無意識に腕の振りを抑制してしまうからです。
成長期の選手が意識したい生活習慣と環境

中学生や高校生の年代は、技術練習と同じくらい、あるいはそれ以上に「身体の成長」そのものが球速アップの鍵を握っています。
この時期にどのような生活を送るかで、将来の「最終身長」や「筋肉の質」が大きく変わってきます。ここでは、成長期の選手が絶対に知っておくべき生活習慣のポイントを解説します。
骨の成長と筋肉のバランスを知る
成長期には「身長が急激に伸びる時期(成長スパート)」があります。
この時、身体の中では少し厄介なことが起きています。「骨の成長スピード」に「筋肉の成長」が追いつかないのです。
骨がどんどん伸びていくのに筋肉がそのままの長さだと、筋肉は常にピーンと引っ張られた状態になります。これが成長期の身体が「硬く」なりやすい原因であり、成長痛や怪我の元にもなります。
だからこそ、この時期は今まで以上に「ストレッチ」を入念に行う必要があります。筋肉を柔軟に保つことで、骨の成長を妨げず、スムーズに身長を伸ばすサポートができるのです。
身長を伸ばすための「栄養戦略」
「背を伸ばすにはカルシウムを摂ればいい」と思っていませんか?実は、それだけでは不十分です。
骨をビルに例えるなら、カルシウムはコンクリートです。しかし、コンクリートだけではビルは建ちません。鉄筋となる「タンパク質(コラーゲン)」が必要です。
さらに、その骨を定着させたり、身体の中で上手く運んだりするための「ビタミンD」「ビタミンK」「亜鉛」「マグネシウム」といった栄養素が不可欠です。
特にスポーツ選手は、日々の激しい練習で大量のエネルギーと栄養を消費しています。普通の子と同じ食事量では、身体を修復するだけで精一杯で、成長のために使う栄養が足りなくなってしまう「エネルギー不足」に陥りがちです。
3食の食事をしっかり食べることはもちろん、練習前後の補食や、食事だけで補いきれない栄養素をサプリメント等で賢く補うことも、賢いアスリートの選択肢の一つと言えるでしょう。
「睡眠」はただの休息ではない
「寝る子は育つ」という言葉は、科学的にも正解です。
身長を伸ばす鍵となる「成長ホルモン」は、起きている間にはほとんど分泌されず、深い眠り(ノンレム睡眠)に入った直後に大量に分泌されます。
特に夜の22時から深夜2時の間が良いと言われたりしますが、現代の科学では「入眠からの最初の90分」の質が最も重要だとされています。
また、成長ホルモンは骨を伸ばすだけでなく、練習で傷ついた筋肉を修復し、疲労を回復させる役割も担っています。
スマホを見ながら夜更かしをするのは、自ら球速アップのチャンスを捨てているようなものです。部屋を暗くし、リラックスした状態で質の高い睡眠を確保することは、どんなキツイ練習よりも成長に効果があるトレーニングと言っても過言ではありません。
野球のピッチャーの身長と球速の関係まとめ
今回は、野球のピッチャーにおける身長と球速の関係について、物理的なメリットから、小柄な選手が勝つための戦略、そして成長期の過ごし方までを詳しく解説してきました。
記事のポイントを改めて振り返ってみましょう。
- 身長と球速には相関関係がある
長い腕による遠心力や、高い位置エネルギー、打者への距離の近さなど、物理的に有利な要素が多い。 - 高身長は「角度」で、低身長は「軌道」で勝負する
高い位置からの角度のある球は打ちにくい一方、低い位置からのホップするような球もまた、打者には脅威となる。 - 小柄でも150km/hは可能
回転速度の速さ、下半身の床反力の活用、身体の柔軟性を極めることで、体格差は技術でカバーできる。 - 成長期の「栄養」と「睡眠」が未来を決める
技術練習と同じくらい、骨を伸ばし身体を作るための生活習慣が重要。特に消費カロリーを上回る栄養摂取と、質の高い睡眠は不可欠。
身長は遺伝だけで決まるものではなく、成長期の過ごし方によって最大限まで伸ばすことが可能です。
「もっと背が高ければ球が速くなるかもしれない」「今の身長でできる最高のパフォーマンスをしたい」
そう願う選手にとって、日々の食事や睡眠を見直すことは、今日からできる一番確実な「球速アップの練習」かもしれません。
自分の可能性を信じて、身体の内側からの強化にも目を向けてみてはいかがでしょうか。
最後に、成長期の身体づくりを強力にサポートしてくれるアイテムについて、さらに詳しい情報を知りたい方は、ランキングページもぜひ参考にしてみてください。




